戦略/作戦/戦術/補給について
こんにちは。
最近、UEIの清水さんのブログで、戦略が何か分かっていない経営者が多すぎ、という記事を見かけました。
記事自体は2年以上昔の記事なのですが、今読んでも非常に勉強になるお話でしたので、それについて考えたことを書こうと思います。
まず、兵站という言葉はとても軍隊的でビジネスに馴染まないので、良い言葉は無いかと考え、このブログでは補給としました。
補給でも十分ビジネスにそぐわないのですが、他に思いつかなかったのでこの記事では補給で行きます。
清水さんの記事はかなり内容も濃くて、読むのに時間がかかるのですが、要点はこんな感じでした。
- 戦略ってのはそんなにコロコロ変えるものではない
- 戦略は人に簡単に話すようなものではない
- 戦略と目的(文中では妄想)は違う
- 戦略を実現するためにいくつかの作戦がある
- 作戦を実現するために戦術がいくつかある
- それらの戦術を行うために用意するべきものが補給(文中では兵站)である
- 戦略、作戦、戦術、補給(兵站)をAppleの例で説明…これは後述
でも意外と戦略と戦術は違うっていう話題は日々の会議でも出てくるので、この記事の2年後である2014年現在は、結構認知されてきているのではないかと思います。
ただ未だに認知されていないのは、戦略と戦術が"どのように"違うか、ということです。
更に言うと作戦、補給という概念はなかなか聞くことはありません。
清水さんの記事の中の図を引用します。
出典: UEI shi3zの日記 (http://d.hatena.ne.jp/shi3z/20120416/1334543387)
※引用が問題あればコメントなどでご連絡ください。
非常にわかりやすいです。
しかもiPhoneがリリースされた当初、誰もこんな戦略に気づかなかったことからも戦略を大っぴらに明かすものではないことがわかります。
他にも考えてみましょう。図を作るのは面倒なので文中に書いてしまいます。
戦略:
全ての情報を牛耳る
作戦:
検索サービス、地図サービス、SNS、メール、ブログ、動画共有、写真共有、スマートフォン
戦術:
地図サービスはP/L度外視、メールも基本無料、自社が強いサービスと弱いSNSを紐づける
補給:
膨大なサーバ、莫大な資金、優秀なエンジニア、スマートフォンを製造するメーカ、精度の高い地図を提供してくれる企業
どこの会社のことを言っているかわかりますか?
もう2社ほど考えてみましょう。
戦略:
自社の技術無しでは成り立たない世界を作る
作戦:
世界標準のOSと組む、エンドユーザからの支持を得る、圧倒的な品質と性能
戦術:
継続的にOSメーカにハイスペックな新Ver.をリリースさせる、各クライアントのTVCMに資金を出して自社のロゴを入れさせる、世界中の工場を全く同じ設計にする、開発拠点の集約、Tick-Tack
補給:
優秀なエンジニア、世界中の自社製造拠点、本国の開発拠点、資金、要素技術を持った装置メーカ
これはどこでしょう。
Tick-Tackとか書いてしまって隠す気があまりないですが、ここも素晴らしい業績をあげている会社です。
IT系ばかりでしたので、ちょっと趣向を変えて他の業界に目を向けてみます。
戦略:
高い客単価×集客数を両立させ、高い利益率を維持し、高い満足度を提供する
作戦:
顧客に現実世界を忘れさせる(お金を使いやすくする)、サービスの利用のため待ち時間を作ることで高くても買えるときに買わないと損と思わせる、リピートさせる、愛社精神醸成
戦術:
なるべく外界が見えない施設設計、鉄骨など機能性のための構造が見えない設計、あえて行列ができる用回転率や施設数を調整、安全と清潔を重視しネガティブイメージを排除する、金額は高いがあくまで良いものを提供してポジティブなイメージを植え付ける、自社のファンを従業員として採用、スタッフに裁量権を与える
補給:
世界的なキャラクタの使用権、施設建造のためのキャッシュ、スタッフを教育できる人材、ある程度都心と隔絶されつつアクセスのよい立地
どこのことでしょうか。以前ここの株式を買おうと思った時にすぐにキャッシュが用意出来ず見送ったのですが、そのころから4倍くらいまで上昇しています(2014/12/16現在)。
あの時投資してれば数百万儲かってたなぁ。。。
Appleや例として挙げた3社に共通しているのは、戦略はいずれも抽象的な目標のようなもので、数値や具体的なアクションまでは落とし込まれていないことです(ただし目標と言っても世界シェアNo1や、世界一の時価総額などといった何になりたいかという目標ではなく、何をしたいかという目標であることに注意が必要です)。
また、長年この戦略自体は変更を加えていないこともわかります。
目標に数値を加えたり、具体的なアクションを規定したりすると、環境の変化に応じて頻繁に変更する必要性が生じます。
この後に述べる作戦、戦術、補給はこの戦略を元に組み立てられますので、戦略が頻繁にブレるのはよろしくないのです。
しかし抽象的な目標を掲げられても具体的に何をすべきかは見えてきません。
このため、事業を考える時は戦略だけではなく、作戦を考える必要があります。
すなわち、具体的に何をすることで事業を戦略通り進めるのか、というものが作戦です。
この作戦は1つの戦略のためにいくつか必要になるケースがほとんどです。
それらは環境の変化で途中で変更したり、削除されたり、追加されたりします。
ただし作戦が削除されるのは1事業部がなくなるくらいのインパクトがある変更、というイメージなので、そこそこ重い変更です。
さて、上記でいくつか挙げた例に戻ると、作戦は「検索サービス」で天下を取るなど、何をするかにフォーカスされており、具体的にどのようなアクションでそれを達成するのかが規定されていませんでした。
この具体的なアクションにあたるものが戦術です。
ここは非常に詳細に規定され、また比較的頻繁に見直されるところです。
検索サービスを例にとれば、世界中のWEBをクローリングするシステムを開発し、常時新しい状態のWEBサイトのデータを自社サーバにキャッシュし、インデックス化し、すぐにユーザの検索結果に反映されるようなシステムを構築する、であったり、定期的に検索アルゴリズムを変更し、不正な検索対策(不正なSEO)を排除して検索品質を維持する、であったり、自社で優れたブラウザを開発し、無償で配布し、その標準検索を自社の検索サービスにすることで世界の検索シェアを高める、であったりします。
そして最後にそれらの戦術を実現するために必要なものが補給です。優秀なエンジニアであったり、膨大なサーバであったり、また優れたブラウザを持った会社があればそこを買収するキャッシュだったりするのでしょう。
このように、それぞれのレイヤーや、それらの見直される頻度を規定して戦略、作戦、戦術、補給といった言葉に対する認識を全員で一致させることが、
自社の事業の短期的〜長期的な計画について論ずるための第一歩なのではないかと思うのです。
しばしばみられる例で、現場のチームで戦略について論じようとしていたり(それは戦術か、その中のさらに細かいアクションプランです)、会議中にそもそも戦略と戦術の違いは何ですかみたいな話になったりというものがありますが、その話は本来会議の前に解決しておかないといけない話なのです。
このフレームワーク、すなわち戦略、作戦、戦術、および補給を使って色々な会社の事業を分解してみると、ここは自社にも使えるなみたいな発見があって結構面白いです。