ものづくりブログ

ゼロからスタートして何かを作って世に出すまでのことを書くブログです.

顧客開発って結局何なの?

こんにちは。

リノベるに入社して2年、「Connectly Lab.」、「Connectly App」、「リノベる。App」という3つのプロダクトをリリースしてきました。いずれも顧客開発という*1概念を重視して作ってきました。ときが経つに連れて手法に慣れてきて、この度4個目のプロダクトに臨んでいる中で、かなり顧客開発についての理解が深まったので、書き留めておこうと思います。

顧客開発とは

顧客開発とは、売れる製品を作るための(現状発見されている中で)最も低コストかつ低リスクで行える手法だと理解しています。

例えば、最高のエンジニアを揃えて最短で最低コストで製品を完成させたとして、誰も買ってくれなかったらそれまでのすべての活動は無駄です。
でも確実に買ってくれることがわかっていれば、そこそこのエンジニアを揃えて非効率的に製品を作っても、全く買われない製品を作るよりはましと言えます。
顧客開発とは、確実に買ってもらえる製品が何かを発見するための活動です。

顧客開発の目的

顧客開発では、以下の4つを発見することを目的とします。
- 顧客は誰か?
- 顧客の課題は何か?
- 顧客はその課題を解決するためにお金や時間を使うか?

  • どのような製品をどのように提供すれば課題を解決してもらえるか?

例えば、ティッシュペーパーの場合、
顧客: 生活者
課題: 何かをこぼしたり鼻水が出てきたら困る
支払うか: 1枚0.5円位はお金を支払う
製品: 薄い紙をコンビニで売る
となります。

もっとWEBっぽい事例を挙げるなら、Googleは以下のとおりです。
顧客: PCやスマホユーザー
課題: ちょっとした情報を調べるのにわざわざ百科事典を引いたり詳しい知り合いに聞くのが面倒
支払うか: お金は払わないけどブラウザのトップページをGoogleにして一日に数回は訪れる
製品: キーワードを入力すると関連するWEBサイトを0.000001秒くらいで返してくれるWEBサービス

卑近な例を出せば、「リノベる。」は
顧客: 生活の質を重視していて経済合理性を求める初めて住宅を購入する人
課題: 新築だと購入した直後からガンガン資産価値が下がってしまうことと内装が画一的で面白くないこと支払うか: 新築より安く買える代わりに物件探しや内装のプランづくりに時間と手間を使う
製品: 物件探し、ローン、リノベーションの1ストップサービスにWEBで集客
といえると思います(宣伝)。

ではこれら4個の真実を知るために、私たちはどんな活動をすればいいのでしょうか?

顧客開発の具体的な手法

顧客開発とよく混同されるのは、アンケートや市場調査です。ほとんどの場合、顧客開発でアンケートや市場調査が役立つ事はありません。少なくとも私は役に立っているのを見たことがありません。
その理由は簡単で、顧客は自分の持っている課題に気づいていない事がほとんどだからです*2。例えば顧客に、自宅のセキュリティに課題はありますか?と聞いたらほとんどの場合あると答えますし、その課題を解決するために室内カメラのような製品があったら役に立ちますか?と聞けば役に立つと答えます。でも買ってくれるかといえばほとんどの場合NOであることは、製品を開発したことがある人であれば全員が頷くのではないでしょうか。
また、顧客開発が必要なケースでは多くの場合課題はおろか顧客が誰かもわかっていないので、市場調査は実施しようがありません。20年前にスマホ市場を調べたらおそらく0円だったと思いますが、それがそのままスマホビジネスは儲からないという結論にはつながらないという意味です。

さて、それでは正しい顧客開発の手法について述べます。顧客開発は以下の3ステップで行います。

  • 仮説立案
  • 観察
  • 学習

具体例を示して説明していきます。
仮説は、学生やサラリーマンは自宅に帰った時、カバンの奥に入ってしまった鍵を探すのに苦労している、だとします。
次に観察です。ここでアンケートや市場調査を行ってしまいがちですが、そこは無駄な時間と労力を使わないためにもこらえて、仮想顧客を観察してみましょう。今回のケースで言えば、玄関ドアが大通りに面しているマンションの前で夕方3時間くらい張り込むのが良いでしょうか。そうすれば多分1日に数十件の顧客を観察できるはずです。するとなんと40%の人が10秒以上カバンに手を突っ込んでから鍵を発見していたことがわかったとします。
ここから学習できたことは、意外と多くの人が鍵がすぐに見つからないと言う課題を抱えていることと、ただ見つからないとは言え10秒というごく短い時間であったということです。

次はまた仮説に戻ります。
仮説: カバンに手を突っ込んでから鍵を探す人は、スマホで解錠できる機能があれば鍵を探さずに済む
観察: モーター、両面テープ、Bluetoothモジュール、電池を組み合わせて、玄関の鍵をスマホから開閉できるプロトタイプを作成し(細かいこと気にしなければ数万円で作れるはず)、上記の悩みを抱えている人に使ってみてもらったところ、「スマホはたしかにいつもポケットに入っているから探す手間は省けたが、スマホBluetoothを認識するまで待つので不便なのと、施錠時は普通の鍵を玄関で取って手に持っているのでスマホを使わない」という意見が出た
学習: スマホは鍵のようにカバンの奥にしまいこんでいない。Bluetoothの接続待ちがストレスになる。施錠時はスマホを使うメリットがない

再度仮説に戻ります
仮説: スマートロックを使っている人は、Bluetoothではなくインターネット経由にしたら玄関の前に到着する前に解錠操作をするので玄関前で待つことなくすぐに家に入れる。また、施錠は解錠後20秒くらいで自動でされるようにすれば便利
観察: Bluetoothの代わりに3G/LTE回線のモジュールを積んで、さらに自動施錠機能を追加した改良版プロトタイプを使ってもらったところ、「超便利。毎日使ってる。もはや普通の鍵を使うことがなくなった。」という回答を得た
学び: この製品にはニーズがある

仮説: この製品に1個あたり20,000円の対価を支払ってくれる
観察: クラウドファンディングに掲載して反応を見る…
つづく

となります。顧客開発とは、仮説、観察、学習のステップをなるべく早くぐるぐる回す活動なのです。

顧客開発 = 製品開発?

上記の例で、顧客開発をしているのに製品ができあがっていっていることに気づかれたでしょうか?
顧客開発は観察を重視するため、あるタイミングで必ず製品を開発する必要が出てきます。
これがスタートアップ界隈でよく聞く、MVP(Minimum Viable Product 実用最小限の製品)*3です。
おそらく上記の製品がリリースされたあとは、両面テープが剥がれて解錠できなくなっちゃったけど鍵持ち歩いてなかったから入れないとか、電池切れてたみたいな問題が発生しているので、それもある意味観察と学習で、次の仮説: ドアにビルトインされていて、コンセントから電源が供給されて予備電源としてLi-ion電池が積まれていれば緊急事態を避けられるという仮説が出てくるのでしょう。
顧客開発のループをくるくる回していれば、自然と製品ができあがり、かつブラッシュアップされていくというわけです。

顧客開発のデメリット

顧客開発を始める段階では、顧客が誰かもわかっていませんし、市場がどこかもわかっていません。
つまり、どの程度利益が出るのか、どの程度の売上が見込めるのかが全く検討もつかないのです。そしてそれ自体は問題はありません。なぜならまだこの世に無い事業を起こすとはそういうことだからです。

問題なのは、まだ日本に顧客開発という考えが広まっていないので、新たに事業を始めるとなると綿密な事業計画を提出させられることです。市場規模はどれくらいで、その何%をいつ時点で獲得するのか?そしてそれまではどのような方法で進めるのか?
この事業計画はどのように作ればいいのでしょうか?
残念ながら顧客開発の手法で事業を立ち上げる場合、これに対する解はありません。これが顧客開発のデメリットです。

日本は新たなものを生み出すのが苦手で、その代わり人のマネがうまいということを数十年前からずっと言われています。また、最近も消費者向け製品ではもう諸外国の企業に白旗を上げている日本の大企業が、Tesla社の自動車に積むバッテリーや、iPhoneに積むカメラのセンサや、Googleが作る製品向けの液晶おアネルで採用されて大きな利益を見込んでいます。いずれも能動的に市場を開拓したのではなく、TeslaやAppleGoogleが優れた技術を探してくれたおかげで日の目を見たケースです。

これらの現実は日本に顧客開発の概念が根付いていないために起こっているのだと私は考えています。逆に言えば、日本の経済界が顧客開発さえ理解すれば、日本は世界でも類を見ない経済大国になる可能性があるのです。

まとめ

顧客開発さえ理解して実践できれば誰でも優れた製品を世に出せる可能性があるよ。