ものづくりブログ

ゼロからスタートして何かを作って世に出すまでのことを書くブログです.

モノのログを取るデバイスが"来る"わけ

こんにちは。

前回の記事で、IoTはいくつかのカテゴリに分類でき、またその中でもモノのログを取るデバイスが2015年にたくさん世に出てくると書きました。

今回は私がそう思う理由について書きたいと思います。



結論から言うと3つです。


1. 原価や開発費が安く、個人や中小企業が参入しやすい

2. 少し先の未来に来るであろう世界のために必要不可欠

3. これに必要な技術を持った会社が次のビジネスを探している


上記の理由から、私は2015年がモノのログを取るデバイス元年(表現がダサい)になると思っています。




原価や開発費が安く、個人や中小企業が参入しやすい


前回の記事の冒頭で少し触れた3Dプリンタがここでやっと出てきます。

よく3Dプリンタで製品を量産するみたいな話を聞きますが、そんなことになるのはおそらくまだ数年から十数年先だと私は考えています。

では3Dプリンタはそれほど産業に影響を与えることなく、ただのバズワードで終わってしまうのかというと、そんなことはありません。



ハードウェアを作って売るためには非常に多くのステップを経る必要があります。すなわち、


設計 => 試作 => 検証 => 量産品設計 => 部材調達 => 製造 => 販売 => 出荷 => アフターサービス


です。

ここで、試作の部分に注目していただきたいのですが、これまでは粘土(クレイモデル)や木(モックアップ)で形を作ることで試作品を作っていました[1]。

それが3Dの設計データ(CADデータ)さえ投げればその通りに作ってくれる3Dプリンタの登場により、大幅に開発期間やコストが削減されるようになりました[2]。

上記では行程を1列で書きましたが、実際には何度も失敗を繰り返してやっと次のステップに進むことができるので、一つのステップの時間が短縮されることは非常に大きな変化であることが想像できます。

また、3Dプリンタで試作できるのは筐体(外側のケース)のみですが、中身の電子回路についてもAgICのような製品の登場で飛躍的に時間とコストが削減できるようになっていくことでしょう。

EMSと呼ばれる製造受託会社や、アリババなどのB to B向けECサービスの登場で、自社で大量の工場を持つ必要や特定の商社と取引口座を開設する必要もなくなり、世界中からの部材の調達や製造の委託もPC一つで可能になりました[2]。

もちろん自動車や半導体を作るとなればこのようなサービスのみで済ませることは困難ですが、モノのログを取るようなメカ的な動作も無く、最先端の要素技術も使用されていない分野では十分に恩恵を享受することが出来ます。



少し先の未来に来るであろう世界のために必要不可欠


私はもう少しすると日々の生活のあらゆる情報がデジタル化され、インターネット上で送受信される世界がくると考えています。

例えば、オフィスにいながら家に郵便物が届いたことがわかったり、インターフォンが鳴るとスマホに転送されてきたりします。家の鍵が開くとスマホから確認できたり、逆にスマホで鍵を開けられるようなサービスは来年(2015年)にも出てきそうです。

また、同様にオフィスでも誰が今席にいるのかわかったり、共有の施設が使用されているかどうかなどを確認することができるようになるかもしれません。

これらが可能になると、"今"どういう状態かがわかるだけでなく、"過去"どのような状態だったかを時系列で見ることができます。

これによってどの程度の頻度で部屋やツールが使用されているかを調べて、今までなんとなくの感覚で判断していたような、例えば会議室を増設するかどうかや、逆に減らすことができるかなどを数字で考えることができるようになります。

こういったインフラが整い始めると、今度はある程度使用頻度などが統計的に予想できるようになるため、複数の企業や個人が共有で使用するスペースや施設が増えてくることも予想されます。

普段生活していると、一部の道やお店が混雑していて、同じ目的地に着く別の道や、同様に行ってみたかったお店が空いていたなんてことがしばしば起こります。こういった非効率が、モノのログを解析することでどんどん減っていき、限られた資源でよりたくさんの人が便利さを享受できる世の中に今後は向かっていくと思うのです。



これに必要な技術を持った会社が次のビジネスを探している


先に述べましたが、モノのログをとるデバイスは最先端の要素技術も使用しませんし、メカも使用しないので、ハードウェア面は比較的容易に作ることが可能です。

ですがどこでもすぐに参入できる分野なのかといえばそうではないと考えています。この分野にもコアになる技術やノウハウがあります。

それはデータベースとネットワークの取り扱いです。

データベースとは大量のデータを保持し、必要な時にそのデータを素早く取り出せるようにしておくものです。

データベースといえば、以前は顧客情報や自社の社員の情報、自社で販売している商品の情報を持っておいて、検索してデータを取り出すような用途で使用されてきました。

しかし昨今では非常に膨大なデータを取扱うようになってきています。

例えばGoogleの検索も、私たちがキーワードを入力して検索ボタンを押すたびにGoogle検索エンジンが世界中のWEBサイトから探してきているわけではありません。Googleは普段からインターネット上を巡回し、WEBサイトに含まれるキーワードとそのURLをデータベースに蓄えているのです。

こういった膨大なデータのことを"ビッグデータ"などと呼んだりします。

次にネットワークです。これはどのように安定してインターネットなどのネットワークに接続するのかということです。

モノのログを貯めるのに、頻繁にネットから切断されてしまっていては使い物になりません。

また、それ以上に重要なのが、セキュリティです。

先日もソニーの子会社がどこかの国からサイバー攻撃を受けたというニュースがありました。日常のあらゆるものがネットに繋がっている中で、サイバー攻撃で情報がだだ漏れになってしまえば、私たちの生活が悪意ある第3者にすべて把握されてしまうことを意味します。




そして、ここからが本題です。ここまでで挙げたビッグデータとネットワークについて多くのノウハウを持っている業界があります。

それは今私がいる広告業界です。広告と言えばテレビや新聞などを思い浮かべますが、ここで述べているのは近年急速に成長しているのがインターネット上の広告です。

インターネット上の広告では、多くの場合テレビや新聞の広告とは違い、コンピュータが自動的に広告を配信する仕組みが用いられています。

この辺りの詳しい話はWEB上のあちこちに転がっていますのでそちらに譲ることにしますが、このようにコンピュータが自動的に広告の配信を行う時に、ビッグデータやネットワークが取り扱われているのです。

そして、これはその業界に身を置く私の肌感覚なのでデータなどは出せないのですが、こうした広告技術(アドテク -Ad technology-)の業界で、すでに淘汰が始まっているように感じます。実際に統廃合のニュースも多く耳にしますし、1〜2年前のように似たようなサービスが乱立する状態から脱し、ある程度成熟しつつあるというのが私個人の感覚です。

もともとこれまで急速にアドテクが発達した背景には、リーマンショックを引き金にして金融業から多数のエンジニアが広告業界流入してきたことがあります[3]。連鎖的に金融機関が倒産したり人員削減した影響で、多くのエンジニアが自分たちの技術を生かせる場を探した結果、広告枠を効果の見合う金額で購入するという行為を手作業で行っていた広告業界に革命を起こしたのです。

この歴史を鑑みるに、アドテク業界が飽和すれば、必ずそこからエンジニアの流出が起こります。その先がIoTだというのが私の考えです。



まとめ


以上3点から、私はモノのログを取るデバイスが今後雨後のタケノコのように無数に登場すると考えています。そしてこれは同時に、モノづくりに革命が起きる重大なきっかけになりうると思うのです。

これまで家電としてある程度売り物になりそうなものを作るには様々なノウハウや資金力が必要でした。上述の3DプリンタやEMSが登場したのは数年前ですが、それで簡単に作れるものはなかなか売り物になりませんでした。

しかしモノのログを取るデバイスでは、コアはデバイスそのものではなくビッグデータやネットワークの取り扱いなので、デバイスそのものは非常に単純なのです。そしてコアとなるビッグデータやネットワークの分野にはたくさんのエンジニアが流入してくるのです(という予想)。

また、今後モノのログを取る分野のIoTが普及してくれば、ユーザの環境やニーズにあった多様なデバイスが必要になってくるはずです。1種類のデバイスであらゆる家庭やオフィスに対応できるなどということは考えづらいからです。しかしこれまでモノづくりの主役だった大企業は、実はこのような多品種少量生産は苦手です。多品種少量生産が最も得意なのは現状では中小企業ですが、今後はここに個人が加わるのです。

私は回路をいじり始めてまだ1ヶ月ほどですが、本気で世に何か製品を出してやろうと思って活動しています。ほんの数年前ならそんなこと思いつきもしなかったはずですが、今はもしかすると十数年前にインターネットが世界に革命を起こしたように、モノづくりに革命が起きるタイミングなのではないかと、興奮しています。



参考文献
[1] Wikipediaラピッドプロトタイピングの項」 (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%94%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%94%E3%83%B3%E3%82%B0)
[2] Cerevoからのお知らせ(http://info-blog.cerevo.com/2014/10/09/740/)
[3] アド野テク蔵(http://uwhocares.hatenablog.com/entry/2014/03/10/231338)