ものづくりブログ

ゼロからスタートして何かを作って世に出すまでのことを書くブログです.

顧客開発って結局何なの?

こんにちは。

リノベるに入社して2年、「Connectly Lab.」、「Connectly App」、「リノベる。App」という3つのプロダクトをリリースしてきました。いずれも顧客開発という*1概念を重視して作ってきました。ときが経つに連れて手法に慣れてきて、この度4個目のプロダクトに臨んでいる中で、かなり顧客開発についての理解が深まったので、書き留めておこうと思います。

顧客開発とは

顧客開発とは、売れる製品を作るための(現状発見されている中で)最も低コストかつ低リスクで行える手法だと理解しています。

例えば、最高のエンジニアを揃えて最短で最低コストで製品を完成させたとして、誰も買ってくれなかったらそれまでのすべての活動は無駄です。
でも確実に買ってくれることがわかっていれば、そこそこのエンジニアを揃えて非効率的に製品を作っても、全く買われない製品を作るよりはましと言えます。
顧客開発とは、確実に買ってもらえる製品が何かを発見するための活動です。

顧客開発の目的

顧客開発では、以下の4つを発見することを目的とします。
- 顧客は誰か?
- 顧客の課題は何か?
- 顧客はその課題を解決するためにお金や時間を使うか?

  • どのような製品をどのように提供すれば課題を解決してもらえるか?

例えば、ティッシュペーパーの場合、
顧客: 生活者
課題: 何かをこぼしたり鼻水が出てきたら困る
支払うか: 1枚0.5円位はお金を支払う
製品: 薄い紙をコンビニで売る
となります。

もっとWEBっぽい事例を挙げるなら、Googleは以下のとおりです。
顧客: PCやスマホユーザー
課題: ちょっとした情報を調べるのにわざわざ百科事典を引いたり詳しい知り合いに聞くのが面倒
支払うか: お金は払わないけどブラウザのトップページをGoogleにして一日に数回は訪れる
製品: キーワードを入力すると関連するWEBサイトを0.000001秒くらいで返してくれるWEBサービス

卑近な例を出せば、「リノベる。」は
顧客: 生活の質を重視していて経済合理性を求める初めて住宅を購入する人
課題: 新築だと購入した直後からガンガン資産価値が下がってしまうことと内装が画一的で面白くないこと支払うか: 新築より安く買える代わりに物件探しや内装のプランづくりに時間と手間を使う
製品: 物件探し、ローン、リノベーションの1ストップサービスにWEBで集客
といえると思います(宣伝)。

ではこれら4個の真実を知るために、私たちはどんな活動をすればいいのでしょうか?

顧客開発の具体的な手法

顧客開発とよく混同されるのは、アンケートや市場調査です。ほとんどの場合、顧客開発でアンケートや市場調査が役立つ事はありません。少なくとも私は役に立っているのを見たことがありません。
その理由は簡単で、顧客は自分の持っている課題に気づいていない事がほとんどだからです*2。例えば顧客に、自宅のセキュリティに課題はありますか?と聞いたらほとんどの場合あると答えますし、その課題を解決するために室内カメラのような製品があったら役に立ちますか?と聞けば役に立つと答えます。でも買ってくれるかといえばほとんどの場合NOであることは、製品を開発したことがある人であれば全員が頷くのではないでしょうか。
また、顧客開発が必要なケースでは多くの場合課題はおろか顧客が誰かもわかっていないので、市場調査は実施しようがありません。20年前にスマホ市場を調べたらおそらく0円だったと思いますが、それがそのままスマホビジネスは儲からないという結論にはつながらないという意味です。

さて、それでは正しい顧客開発の手法について述べます。顧客開発は以下の3ステップで行います。

  • 仮説立案
  • 観察
  • 学習

具体例を示して説明していきます。
仮説は、学生やサラリーマンは自宅に帰った時、カバンの奥に入ってしまった鍵を探すのに苦労している、だとします。
次に観察です。ここでアンケートや市場調査を行ってしまいがちですが、そこは無駄な時間と労力を使わないためにもこらえて、仮想顧客を観察してみましょう。今回のケースで言えば、玄関ドアが大通りに面しているマンションの前で夕方3時間くらい張り込むのが良いでしょうか。そうすれば多分1日に数十件の顧客を観察できるはずです。するとなんと40%の人が10秒以上カバンに手を突っ込んでから鍵を発見していたことがわかったとします。
ここから学習できたことは、意外と多くの人が鍵がすぐに見つからないと言う課題を抱えていることと、ただ見つからないとは言え10秒というごく短い時間であったということです。

次はまた仮説に戻ります。
仮説: カバンに手を突っ込んでから鍵を探す人は、スマホで解錠できる機能があれば鍵を探さずに済む
観察: モーター、両面テープ、Bluetoothモジュール、電池を組み合わせて、玄関の鍵をスマホから開閉できるプロトタイプを作成し(細かいこと気にしなければ数万円で作れるはず)、上記の悩みを抱えている人に使ってみてもらったところ、「スマホはたしかにいつもポケットに入っているから探す手間は省けたが、スマホBluetoothを認識するまで待つので不便なのと、施錠時は普通の鍵を玄関で取って手に持っているのでスマホを使わない」という意見が出た
学習: スマホは鍵のようにカバンの奥にしまいこんでいない。Bluetoothの接続待ちがストレスになる。施錠時はスマホを使うメリットがない

再度仮説に戻ります
仮説: スマートロックを使っている人は、Bluetoothではなくインターネット経由にしたら玄関の前に到着する前に解錠操作をするので玄関前で待つことなくすぐに家に入れる。また、施錠は解錠後20秒くらいで自動でされるようにすれば便利
観察: Bluetoothの代わりに3G/LTE回線のモジュールを積んで、さらに自動施錠機能を追加した改良版プロトタイプを使ってもらったところ、「超便利。毎日使ってる。もはや普通の鍵を使うことがなくなった。」という回答を得た
学び: この製品にはニーズがある

仮説: この製品に1個あたり20,000円の対価を支払ってくれる
観察: クラウドファンディングに掲載して反応を見る…
つづく

となります。顧客開発とは、仮説、観察、学習のステップをなるべく早くぐるぐる回す活動なのです。

顧客開発 = 製品開発?

上記の例で、顧客開発をしているのに製品ができあがっていっていることに気づかれたでしょうか?
顧客開発は観察を重視するため、あるタイミングで必ず製品を開発する必要が出てきます。
これがスタートアップ界隈でよく聞く、MVP(Minimum Viable Product 実用最小限の製品)*3です。
おそらく上記の製品がリリースされたあとは、両面テープが剥がれて解錠できなくなっちゃったけど鍵持ち歩いてなかったから入れないとか、電池切れてたみたいな問題が発生しているので、それもある意味観察と学習で、次の仮説: ドアにビルトインされていて、コンセントから電源が供給されて予備電源としてLi-ion電池が積まれていれば緊急事態を避けられるという仮説が出てくるのでしょう。
顧客開発のループをくるくる回していれば、自然と製品ができあがり、かつブラッシュアップされていくというわけです。

顧客開発のデメリット

顧客開発を始める段階では、顧客が誰かもわかっていませんし、市場がどこかもわかっていません。
つまり、どの程度利益が出るのか、どの程度の売上が見込めるのかが全く検討もつかないのです。そしてそれ自体は問題はありません。なぜならまだこの世に無い事業を起こすとはそういうことだからです。

問題なのは、まだ日本に顧客開発という考えが広まっていないので、新たに事業を始めるとなると綿密な事業計画を提出させられることです。市場規模はどれくらいで、その何%をいつ時点で獲得するのか?そしてそれまではどのような方法で進めるのか?
この事業計画はどのように作ればいいのでしょうか?
残念ながら顧客開発の手法で事業を立ち上げる場合、これに対する解はありません。これが顧客開発のデメリットです。

日本は新たなものを生み出すのが苦手で、その代わり人のマネがうまいということを数十年前からずっと言われています。また、最近も消費者向け製品ではもう諸外国の企業に白旗を上げている日本の大企業が、Tesla社の自動車に積むバッテリーや、iPhoneに積むカメラのセンサや、Googleが作る製品向けの液晶おアネルで採用されて大きな利益を見込んでいます。いずれも能動的に市場を開拓したのではなく、TeslaやAppleGoogleが優れた技術を探してくれたおかげで日の目を見たケースです。

これらの現実は日本に顧客開発の概念が根付いていないために起こっているのだと私は考えています。逆に言えば、日本の経済界が顧客開発さえ理解すれば、日本は世界でも類を見ない経済大国になる可能性があるのです。

まとめ

顧客開発さえ理解して実践できれば誰でも優れた製品を世に出せる可能性があるよ。

Googleスライドで資料を作成する手順

こんにちは。

資料作成ツールと言えばMicrosoftのパワーポイントやAppleKeynoteなど様々なツールがありますが、私はもっぱらGoogleのスライドを使用しています。

www.google.com

理由は主に以下の通り

  • 無料
  • インストール不要でブラウザがあれば使える
  • 人に共有するのが楽(添付しないでもURL送るだけでOK)
  • 自動保存で、かつ過去の変更履歴が残るのでPCのフリーズなどでせっかくの作業が無駄になるリスクがない
  • 複数名で同時編集がしやすい

逆にこんなデメリットもありますが、メリット > デメリットなのでGoogleスライドを使用しています

  • 日本語フォントが少ない
  • 印刷する時設定が少し手間(でもpdfにして印刷したら問題なさそう)

さて、今回の内容ですがGoogleスライドを使用して、資料を作成する時に私が使っている手順の紹介です。
1と2はGoogleスライドに限らず、資料作るときには必ずやってます。

目次

1. 資料の目的を定める

この資料は何のために作るのかを決めます。A4に書いて目の前に貼っておくとよいかも。
それくらい人間は作業の途中で目的を見失って、資料を作ることが目的になってしまうものです。

資料の目的は、「"人"を"状態"にするため」であることがほとんどです。
上司の承認を取るための資料なら、
「"上司"を"企画に合意した状態”にするため」ですし、
人に使い方を説明する資料なら、
「"ユーザー"を"使い方を理解して自分だけで使える状態"にするため」です。
誰をどうするための資料か、じっくり考えて書き出して机の前に貼っておきましょう。


2. アウトライン作成

目的が定まったら早速資料を作り出したいのですが、その前に資料の内容を箇条書きで書き出します。
まずタイトルを書くことをオススメします。タイトルは読み手が読みたいと思えるものになっているべき。
「事業者向けカスタマーサポートツールの企画書」だとおもんない。
「一回の顧客を一生の顧客にするためのコミュニケーションツール」みたいなタイトルだと「ほう。」って思ってもらえるかも。
仮でもタイトルが決まったら今度は目次を作ります。常に読み手の興味を惹きつつ、目的を達成できる内容かを常に意識しながら作りましょう。
目次ができたら各ページで何を伝えたいかを箇条書きで作っていきます。
こんな感じ。
スライドアウトライン見本 - Google スライド

できたら一回最初から最後まで通して見て、流れが変じゃないか、説得力があるかとかを確認すると良いです。
身近な人に一度これを使って説明してみるとさらに良いです。
自分で見るより客観的に見てもらえるのでバグが見つかりやすいです。


3. マスタ作成

さて、ここから資料作成っぽくなってきます。スライドに会社のロゴを入れたり、ページ番号を入れたりってのをページごとに作るのは大変なので、マスタというものを使っていきます。これはパワポにもKeynoteにもあります。

まず以下の画面のように「表示」から「マスター」を選んでください。
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すると以下の画面が出てきます。
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上の写真で、1で囲まれているところが、マスタ、2で囲まれているところがレイアウトとなっています。
マスタ: スライド全てに適用されるデザイン。ロゴとか?でも私はあんまりここ触ったことないです。
レイアウト: ここが肝。タイトルとか、箇条書きのページとか、自分が使うスライドのパターンをここで登録しておきます。

私の場合こんな感じでレイアウト分けて使っています。
タイトルスライド: 資料の表紙に使うスライド。タイトルと、自分の名前や所属を書くところを用意しています
内容を書くスライド: 普通のページ用。上部に見出し、その下8割位のスペースに箇条書き、右下に会社のロゴって感じです。
サブタイトルスライド: たまにトピックが変わるごとにサブタイトルだけのページを挟むので、それ用です。サブタイトルを書くところのみあります。
内容を書くスライド(Confidential): 上記と同じデザインで、左下に「Confidential」って書かれてます。社外秘の資料向け。
サブタイトルスライド(Confidential): 同上。

マスタやレイアウトを作る時に、画像などはそのまま貼っ付ければいいのですが、例えばテキストボックスだけ置いておきたい時に戸惑うかもしれません。普通にテキストボックスを置いてしまうと、スライドの背景になってしまうのでスライド編集中にそのテキストを編集できません。
こういうときはプレースホルダーという機能を使います(下図)。
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これを設置しておけばスライドを新規作成する際は最初からテキストボックスが設置されているので、位置も統一されますし資料作成がはかどりますよ。

ちなみにマスターは1回作成したら流用することをオススメします。
やり方は、一度作成した資料をコピーして、内容を書き換えればOKです(多分Googleスライドにマスタを保存する機能がまだない?)
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4. 肉付け

さて、アウトライン作成してマスタを作成したら、今度は肉付けです。
肉付けでやることは大まかに以下の様なことです。

  • グラフにする
  • 図や表にする
  • 絵や写真にする
  • (あんまりやらないけど)動画にする
  • (多用はおすすめしないけど)アニメーションにする

上部のメニューバーに以下のようなアイコンがあると思いますが、左から画像、図形、線(矢印)の挿入を意味しています。
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テキストのほうがわかりやすければテキストのままでもいいですが、ほとんどの場合画像や図形の方が読み手、聞き手の頭には入りやすいので、ここは腕の見せどころです。今回はGoogleスライドの使い方の説明なのでこのあたりは端折ります。むしろ私が教えてほしいくらいです。


5. チェック、修正

ここまで来るとほぼ資料は完成したように見えますが、ほぼ本番はここからです。
作成した資料がちゃんと目的を達成しているか、読み手や聞き手が理解できる表現になっているか、見づらい表現になっていないかなどをチェックしていく必要があります。私が使っているチェックリストをここに書いておきます。

  • 文字の表記揺れがないか

- スペースの半角全角のゆらぎはだめ。特別な理由無ければ全部半角にする
- カタカナ、数字、アルファベットも同様にゆらぎをなくす。カタカナは全角、他は半角

  • 表現の揺れがないか

- 話すとはなすとか、同じ資料や文書内で異なる表現をしない

  • フォントの大きさに意味をもたせる

- 同じ重要度の情報なら同じフォントサイズにする
- 一番伝えたいことを一番大きなフォントにする

  • フォントが統一されているか

- ヒラギノ角ゴProとかメイリオ推奨

さらに、以下を注意しています。これらは細かい説明が無いと理解が難しいと思うので、私が穴が空くほど熟読しているサイトのリンクを貼っておきます。
誰も教えてくれない「分かりやすく美しい図の作り方」超具体的な20のテクニック | TomoyukiArasuna.com

  • 図で説明している時もっとシンプルにできないか
  • 近接、整列、コントラスト、反復の原則が守られているか
  • 規則正しい形を使用できているか
  • 左右対称(シンメトリー)か
  • 囲みが多すぎないか
  • 線をもっと減らせないか
  • 色を使いすぎていないか、ベース、メイン、アクセントの3色は何か
  • 余計な言葉無いか。テキストはできるだけ減らす
  • 矢印をもっと小さくできないか
  • 吹き出しの角丸とツノを小さく
  • 立体的より平面的に(情報量を減らす)
  • グラフの色分けが見やすいか
  • グラフの項目を指し示す線はなるべく短く、中途半端な確度は使わず0度か45度の倍数

資料作成の手順は以上です。プレゼン用でも紙に印刷して渡す資料でも、だいたいこの方法で私はやっています。

実験でものづくりをすると、成功率がグンとあがるよ!という話。

こんにちは。

※この記事はIoTLTアドベントカレンダーの12/6分の記事です。

先日のIoTLTVol. 21でお話した内容を、もう少しだけ詳細に説明した内容です。

目次

  1. メッセージ: あなたのサービスの実現のお手伝いをうちでやらせてください
  2. 実験でものづくりをするとはどういうことか
  3. 実験を使って事業を作るメリット
  4. 今日から試せる実験方法
  5. 実験のポイント
  6. 実験結果
  7. 実験を通してリリースしたサービス「Connectly App」
  8. おわりに




1. メッセージ

リノベるでは、人々の暮らしを豊かにする方法を日々探しています。
自社で住居を提供することはできますが、豊かな暮らしのためには衣食住遊など様々な要素を満たしていく必要があります。
これは一社だけではできません。
リノベるには、皆さんがお持ちのアイデアやサービスがどれだけ優れているか、どうやったらもっとよくなるのかを、安く、早く、簡単に検証する環境とノウハウがあります。
この記事を読んで興味を持っていただけた方は是非リノベるの木村までお声がけください!そしてリノベるのサービスとの連携を是非ご検討ください!


2. 実験でものづくりをするとはどういうことか

ものづくりをする際に、実際に作るのは実験してそのアイデアがイケてるかイケてないか試してからでも遅くないよ、ということです。作っちゃうとお金も時間もかかりますし、うまく行かなかったときにピボット(方向転換)する際の自由度も下がります。でも作る前の実験でそのアイデアがイケてないとわかれば、作らずにすむのでお金もかからないしピボットどころか全く違うアイデアを試すことができます。


3. 実験を使って事業を作るメリット

たくさんメリットはありますが、一番はお金と時間がかからないこと、これに尽きます。
後述の通り、私は70個位実験に失敗して1個の成功を得ましたが、もし70通りのサービスを作っていれば、1個あたり開発費100万円だったとしても7,000万円かかります。でもサービスを作る前にそのサービスがユーザーに受け入れられるかを検証したため、費用を圧倒的に少なく抑えることができました。


4. 明日から試せる実験方法

ここが一番重要なところです。お金と時間がかからない実験ってどんなものなのか。誰でも明日から始められる方法なので、是非読んで頂きたいところです。
例えば、次のような仮説があったとします。
「ペットと暮らす人は、仕事中にペットが吠えたら知りたい。そしてその時の様子を見たい。」
もしこの仮説が正解だとすれば、解決してあげればなんらかの対価を支払ってくれると考えられます。つまりビジネスになります。
ペットが吠えるとスマホに通知が来て、その時の様子が動画で再生されて、ついでに家に置いてあるスピーカー越しにペットに声をかけられたり、場合によってはおもちゃを動かしたりするアプリとデバイスを作ればお金を払ってくれて、しかも月額使用料を支払ってくれるかもしれません。
でもこんなサービスを開発しようと思うとアプリ開発で数百万円、デバイス開発で数千万円、初期生産ロットでまた数百万円かかってしまいます。作ってみてもし売れなかったら大惨事です。

クラウドファンディングをするというのはいきなり作るよりは良い手です。本格的に開発する前にどの程度の人が購入してくれるのかわかるからです。ただ難点なのは、クラウドファンディングをするのにもそこそこの準備が必要で、特に最近はプロトタイプや動画のクオリティも上がってきており、クラウドファンディングをすることそのものにコストがかかる点です。動画制作などを外部にお願いするとなると、合計で数十万円くらいのコストはかかりそうです。プロトタイプも作るとなるとそこに数百万円乗っかりそうですね。

コストのかからない方法として思いつくのはアンケートやインタビューです。でも人間はなかなか自分が必要としているものに気づきません。だから、「こんなサービスがあったら使いますか?」とか「どんなサービスがほしいですか?」と聞いても我々の期待した回答が得られることはほとんどありません。

私がこれから提案する方法はお金や時間もあまりかからず、しかもユーザーが本当に必要としているかどうかを確かめられるものです。ただ、最初に聞いたときは「え、そんなのでいいの?遊んでるみたい。」と思われるかもしれません。
どんな方法かというと、既存のデバイスやサービスを組み合わせて擬似的にそのサービスを提供してしまうというものです。そして使い続けてくれれば必要とされていると判断し、数日で使わなくなってしまうのであれば必要とされていないと判断します。

例えば、そこら辺のネットワークカメラと、音を検知するデバイスと、遠隔操作で喋るロボットを用意して、それらを3個ともペットを飼っているテストユーザーに貸すという方法です。
詳細に使い方をレクチャーし、実際に目の前で操作してもらいます。一連の流れを覚えて迷うことがなくなったら3個のデバイスとアプリを使いながら普通に生活してみてもらって、1週間後こう質問します。
「最後に音検知の通知を聞いたのはいつですか?そして最後にカメラを見たのはいつですか?」
その回答が「さっきです。」とか、「1日前です」とかであればこの機能は必要とされる可能性があります。でも、「いつだったかな、ちょっと待って下さいスマホ見てみます。」だったり、「音検知はしょっちゅう来てます。でも動画は見てません。」だったら多分このサービスは作っても使われません。

なかにはデバイスを用意するまでもなく試せる実験もあります。
「主婦は電気代を高いと思っており、少しでも下げたいと考えている。」
こんな仮説だったら、デバイスを用意するまでもありません。ただこう聞けばいいだけです。
「先月の電気代はいくらでしたか?」
これが答えられなければ、電気代を安くするというサービスは必要とされていないということです。
実際に金額に関心のあるもの、例えば乗っている車の購入金額、住んでいるアパートの家賃、自分の月給を答えられない人はあまりいません。


5. 実験のポイント

実験にはいくつかのコツがあります。その中でも重要なものを3個挙げます。

他社製品で実験しても構わない

なんでも自社で用意する必要はありません。競合他社が似たような製品をすでにリリースしていれば、それを購入して使うべきです。かのAppleだってiPhoneを出す前に3つの機能を実験しています。ジョブズのプレゼンを見た人なら分かる通り、携帯電話、モバイルインターネット、音楽プレーヤーです。そのうち音楽プレーヤー(iPod)以外は他社製品で実験しています。携帯電話はノキアなどの製品ですし、モバイルインターネットはある島国の会社が提供していたi-modeというサービスです。

質問はオープンに

上記の例で言うと、「電気代が下がるとうれしいですか?」とか、「電気代が下がるなら契約する会社を変更しますか?」という質問はNGです。ほとんどの人がYESと答えます。でも実際はその答えは真実でないことがほとんどです。このことは実際にユーザーにアンケートやインタビューを行ったことがある人なら感覚で知っていると思います。
ではどのような質問をすべきかというと、オープンクエスチョンを使うべきです。
オープンクエスチョンとは、YES/NOで答えられる質問ではなく、例えば5W1Hで聞くような、相手が好きなように答えられる質問です。
「家計で気になるのはどんな出費ですか?」
などです。
これを使うとより相手の正直な気持ちを引き出せますし、答えるときに相手が考えるので、より深層心理に近い回答を絞り出してもらえる可能性が高まります。

質問はユーザーの思考より行動にフォーカスする

オープンクエスチョンをすることでユーザーの正直な回答を引き出す確率はかなり上がりますが、より真実に近づくためにはユーザーの思考ではなく行動にフォーカスする必要があります。
「どう思いますか?」より「どう行動しましたか?」のほうがより良い質問という意味です。
それは何故かと言うと、どう思いますか?という質問に対しては悪気なく本心と違うことを答えてしまう可能性があるのに対し、どう行動しましたか?という質問に対しては実際に起こった事実を答えるので間違った回答をすることはまず起こり得ないからです(悪意があれば別です)。
「運動してたっぷり汗をかいたあとは何を飲みたいと思いますか?」と聞くと「ビール」と答えるかもしれませんが、「運動したあとどんな飲み物を買いましたか?」と聞くと「ポカリ」と答えるかもしれません。この場合より真実に近いのは「運動後はポカリを飲みたいと思っている」ということです。


6. 実験結果

さて、私は2016年の4月から9月の間にざっくりと70個くらいの仮説について実験を行いました。10月からこの記事を書いている11月末時点までの間にさらに30くらいの実験を行っていますが、ここでは9月までの70個の実験の結果からのみ抜粋します。

ユーザーニーズが無いと判断した仮説
  • 家電の遠隔操作は2日で飽きる
  • スマホで操作できるデバイスが増えると超絶不便
  • ペット見守りカメラは1日で飽きる
  • 消耗品の安値レコメンド+簡単発注は利用されない
  • 省エネ、電気代節約は興味を持たれない
  • 電力消費を見える化しても1日で飽きる
  • セキュリティカメラやセンサーに価値を感じていない(安全が無料)
ユーザーニーズがあると判断した仮説
  • でかける時刻や天気などを朝自動的に音声でお知らせしてくれる機能

以上

一般的にニーズがあるとされている住宅向けIoTデバイスが持つ機能がことごとくユーザーから受け入れられず、正直「スマートハウスってニーズ無いんじゃ…?」と思うことも何度かありました。それくらい常識ではニーズが有ると言われているものがユーザーからは2日くらいで飽きられました。

でもある時ユカイ工学さんのBOCCOを使って、朝出かける時刻や、天気予報を喋らせたりしたところ、毎日使ってくれて、しかもその方の奥さんやお子さんまで使ってくれるということが起こりました。もっというとちょっとした不具合で動かなくなったときに奥さんからクレームが出て、必要とされていることが証明されました。


7. 実験を通してリリースしたサービス「Connectly App」

実験結果をもとに、なるべく誰でも使えるようなUIで、BOCCOに情報を喋らせるアプリを開発しました。
Connectly Appというアプリです。(CNETさんの記事)
https://itunes.apple.com/de/app/connectly-app/id1159235047?mt=8&at=10l8JW&ct=hatenablog

UIも基本的に実験をもとに作っており、手書きで画面を書いてみて色んな人に触ってもらって迷わず押すべきボタンを押せるか検証したり、Prottというサービスを使って画面遷移で迷わないかどうか試したり。ひたすら社内の人や偶然食事行った人に触ってもらって質問したり後ろから使っている様子を動画で撮ったりする日々でした。

結果、スマホユーザーのほとんどが使っている、LINEなどのチャット画面と、アラームアプリのような画面に落ち着きました。

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BOCCOがあれば無料で使えるので、是非使ってみてください。朝の準備のスムーズさが結構変わります。また、今後も機能をどんどん追加予定です。機能追加後もチャットでアプリが丁寧に設定方法を教えてくれるので簡単に設定できると思います。


8. 終わりに

実験を使って事業を作るのは、お金も時間も節約できるので自分にとってだけでなく、自分が所属する組織にとっても計り知れないメリットのある方法です。

でもあまりにも突飛な発想なので、最初はなかなか受け入れられないと思います。
そんななかリノベるという会社は非常に理解があり、好き勝手やらせてくれました。めちゃくちゃ感謝してます。
だからきっとそんなにうまくいったのは比較的理解のある会社だったからでしょうと思われるかもしれません。
もちろん否定しませんが、うまくいくにはどうすればよいか、というコツもかなりつかめたと思います。なぜなら僕の上司がそのあたりがすごくうまかったからです。その上司のおかげでここまでうまく行ったと言っても過言ではありません。
多分どんな会社でもこの実験を使う方法は使えると思いますし、使うべきです。
どうやればよいのかわからないという方、是非ご相談ください。きっとお役に立てると思います。
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